タピオカが怖い
タピオカが怖い
流行という名の最強装備を身に纏い、女子高生を味方につけ、あれよあれよという間に堂々たる地位を築いたあの黒い玉が怖い。ヒイヒイ言いながら23年間生きてきた私を一瞬で追い越してしまうくらい、爆速で世間に馴染んでいるあの黒い玉が。
学校から帰ってきたら居間で知らないおじさんと母が談笑していて、事態が飲み込めず固まっていると「おう、おかえり」って馴れ馴れしく言われた時を彷彿とさせる。そんな経験ないけれど。
この恐怖心を打ち明けると、タピオカ有識者たちは決まってこう返してくる。
「でもタピオカって昔からいろんなものに使われてるよ?ポン・デ・リングとか一時期流行った白い鯛焼きとか」
正論だ。だがしかし、そうは言われても釈然としない。たとえ以前から存在していたとしても、気付かないうちに触れていたとしても、認識できていなければ意味はない。
あの人は一体誰だと母に尋ねたら「誰って叔父さんよ。あらやだ覚えてないの?あんたが生まれた時出産祝いもくれたのに」とか何とか言われて(知らんわ!!)と内心ブチギレたことを思い出す。そんな記憶ないけれど。
だから、これだけブームになっても全く食指が動かなかった。皆美味しそうに食べたり飲んだりしているにもかかわらず、何故かタピオカが視界に入ると背筋に冷たいものが走り、動悸が止まらなくなる。
実はあの漆黒の球体はブラックホールを凝縮したもので、一度体内に取り込んでしまったら最後、じわじわと侵食されて最終的には宇宙に漂う塵にされてしまうのではないだろうか。だから無意識に恐怖を感じているのではないだろうか。そうだ、きっとこれは防衛本能なんだ。こんな想像を知人に話したら、少しの沈黙の後「感受性が豊かなんだね」とだけ返された。その表情は、2%の慈しみと98%の哀れみで構成されていた。
転機が訪れたのは、3ヶ月ほど前。
という島根出身者ならにわかには信じがたいニュースが耳に飛び込んできた。
浅漬けとパンケーキくらい食い合わせ悪くない???
(参考資料)
雲南市でもタピ活しよう!タピオカドリンク専門店OROのメニューを紹介|三刀屋町 | 島根県のグルメ・観光スポットナビ|島根旅行ならトリセツシマネ!
どうやら、紛れもない事実らしい。
ということはだ。近いうちに三刀屋在住のマダム&ムッシュが私よりも先にタピオカデビューする日が訪れてしまう。いや別に誰かと競っているわけではないけど、僅かに残っていた20代としてのなけなしのプライドが許さなかった。
いつまでも逃げてはいられない。私は腹を括ってタピオカとタイマンを張ることにした。決戦日は2019年10月20日。家族を故郷に残し、一人戦場へ向かう一兵卒のような気持ちで近所のショッピングモールに足を運んだ。
入口を潜り抜け、まっすぐ向かったのは「ムーミンスタンド」。その名の通り、ムーミンモチーフのドリンクを販売している店舗だ。
沢山種類があったが、購入したのはロイヤルミルクティー。散々避けてきたせいで「タピオカといえばミルクティーに入ってるもの」という偏ったイメージしかないことが露呈している。
何故、敢えてこの店を選んだのか。理由は至極単純で、世界観を重視するムーミンスタンドではタピオカを「ニョロニョロのたね」と称していたから。タピオカではなく別物だと意識しながら飲めば、きっと恐怖心も薄れるに違いない。孔明の目から鱗が落ちるほどの名案である。
さて、これで全ての準備は整った。あとは実食あるのみ。意を決して、極太ストローを口に運ぶ。
これはニョロニョロのたねこれはニョロニョロのたねこれはニョロニョロのたね……
…………ニョロニョロのたね?
ここから……ニョロニョロが生まれる……?私は……今からそれをた、食べ……?
…………いやこっちの方が恐ろしいわ!!!!!
思わずカップをぶん投げそうになった。隣で和気藹々とアイスを食べてる親子がいなければ、突如公共の場で発狂する危険人物として警備員さんのお世話になっていたかもしれない。
なんとか理性を取り戻し、精神を落ち着かせる。冷静に考えてみれば、普段から肉だの卵だのをバクバク食べているのに何を恐れることがあるのか。弱肉強食・食物連鎖はこの世の真理。申し訳ないけど、ニョロニョロには私の血肉となってもらう。
Take2。ええい、ここまで来たらなるようになれ。私は全身全霊ありったけのパワーでストローを吸った。
ズゾゾゾゾッ
ε=ε=ε=ε=ε=ε=●●●●●●(凄まじい勢いで突っ込んでくるタピオカ軍団)
+
!?!?!?(てっきりまずは液体が流れ込んでくると思い完全に油断していた喉奥)
II
◎$♪×△¥●&?#$!(窒息)
結論:やっぱりタピオカは怖い。
【真面目な感想という名の蛇足】
全然苦手ではないけれど、これからも積極的に食べたいかといえばそうでもないかな……という感じ。全く記憶にない叔父さんから、たまに正月とか冠婚葬祭で会うならいいけど四六時中一緒に過ごすと疲れる叔父さんになった。