午前3時のおやつ

I'm not meshitero.

騎馬戦に憧れすぎて週3で騎馬戦の夢を見た話

学生時代に残してきた後悔。誰しも一つや二つはあるんじゃないだろうか。

県大会決勝戦、あそこでヒットを打てていたら──
自分の気持ちに素直になってあの時告白していれば──
今更言っても仕方がない。だけど、時々ふっと思い出してしまう苦々しい記憶。
御多分に漏れず私にもある。自分にはどうすることもできなかった、でも未だに諦めきれない、とある後悔が。それは、


「騎馬戦やりたかったんじゃ〜〜〜〜〜!!!!!」


騎馬戦。それはロマンの結晶。教科書上の出来事でしかなかった「IKUSA」を体験することができる非常に貴重な機会。かつて無念のうちに散っていった武士たちの魂を額のハチマキに宿し、果敢に敵陣へと攻め入る。こんなの、心が踊らないわけがない。
背の順で前から3番目以内にしかなったことがない私は、もし騎馬戦に参加したら絶対に騎手になれるという確信があった。これも、騎馬戦への憧憬が募っていった理由の一つである。

ドラマや漫画で騎馬戦のシーンを見るたびに、自分だったらどうやって戦おうかと妄想する日々が続いた。
パワ○ロか?というくらい真面目に架空の選手のステータスや戦術を考えて自由帳に書き綴ったりもした。斬新な黒歴史だと笑われるだろうか。否定はしない。

しかし、現実は非情である。小中高の12年間の中で、騎馬戦を体験する機会は一度たりともなかった。綱引き、玉入れ、リレー……彼らは幾度となくやってきたのに、愛しの騎馬戦はチラリともその影を見せてくれなかった。運動会・体育祭フェス限定12連ガチャ、見事に大爆死。結局、騎馬戦の趣を一切味わうことなく社会人になってしまったのだ。とてつもなく悲しい。こんなことなら「体育祭で騎馬戦やるぜ!」って公約を掲げて生徒会長選挙に出馬すればよかった。いや、これはこれで別の後悔を招きそうだからやっぱり無しで。

これほどまでに騎馬戦への感情を拗らせた人間の末路。別に誰も気になってはいないと思うが、どうか話させてほしい。


ある日の晩。何の変哲もない、穏やかな夜だった。いつも通り歯を磨き、明日の準備をし、ベッドに入り、眠りについた。
夢を見た。騎馬戦をする夢を。夢の中の私は大将騎馬に乗り、相手のハチマキを次から次へと奪っていった。その姿はまるで川中島武田信玄。では、宿敵・上杉謙信は誰なのか。


ノブじゃ。ノブが謙信じゃ。


何故か私は千鳥ノブと真剣勝負を繰り広げていた。あれか、最近千鳥にハマって相席食堂やテレビ千鳥ばかり見ていた影響か。いろはに千鳥の過去回をアマプラに追加してくれ〜と星に願っていた影響か。だとしても、騎馬戦の相手として死に物狂いの形相で夢に出てこられると、流石に喜びより困惑が勝つ。

そんなこちらの困惑を他所に、ノブと愉快な仲間たちは一目散に突進してくる。よし、わかった。そっちがその気なら受けて立つ!……と覚悟を決めたところでふっと目が覚めた。なんてことだ!夢の中とはいえ、もう少しで念願の騎馬戦を味わうことができたのに!
……いやでも、正直有名人とバチバチに絡む夢はあまり寝覚めが良くないので、ある意味助かったのかもしれない。いつだったか千原ジュニアと漫才をする夢を見た後も、すこぶる調子が悪かったし。


VSノブが不発に終わった翌日。再び騎馬戦をする夢を見た。相手が誰かはわからなかったが、試合自体はきちんとやっていたと思う。しかし、残念なことに起きた瞬間、内容の殆どを忘れてしまった。騎馬戦をやっていたのは確かだけど、手応え的なものはまるでない。見事なまでの不完全燃焼で、その日は一日モヤモヤしながら過ごした。


数日後、またまた夢の中で騎馬戦をした。私はあまり夢を見ない体質なので、こんな短いスパンで立て続けに同じ内容の夢を見るとどうにも調子が狂ってしまう。ちゃんと寝たにもかかわらず、睡眠不足の時のように思考回路がフワフワしており、仕事でもケアレスミスを連発してしまう始末。上司を困惑させてしまったが、「ちょっと騎馬戦の夢の見過ぎで……」と弁明する勇気はなかった。


まさか騎馬戦への想いが募るあまり、日常生活に支障をきたす羽目になるとは。 もはや憧れなんて綺麗なもんじゃない、執着だ執着。もしこのまま一度も騎馬戦を経験せずに死んでしまったら、私はどうなってしまうのだろうか。十中八九成仏できない気がする。

でも、今更どうやって本懐を遂げたらいいのか。当然だけど、一人ぼっちで騎馬戦をやるのは不可能だ。4人一組だとしても、最低8人は必要になる。これはなかなかにキツい。悲しきかな、「騎馬戦やろ〜!」いなんて酔狂な提案をしてすぐに7人集められるほどの人望なんて持ち合わせていない。人間関係構築を疎かにしていると、こういう時にツケが回ってくる。
仕方がない。結局、私のような人間は、孤独に堅あげポテトブラックペッパー味を貪りながら郵便受けに入っていたタウン誌を斜め読みするのがお似合いなのだ。

へー、今月こんな催しがあんのか。ふーん、社会人サークルって案外色々あんのね。俳句、コーラス、拳法……。


ここで私は大変なことに気が付いてしまった。

思わず右手に力が入り、掌中の堅あげポテトが粉々に砕け散る。ごめん、堅あげポテト。お前のアイデンティティをクライシスさせてしまったかもしれない。


もしかして、タウン誌や公民館のホワイトボードでよく目にする「いきいきグループ きらめき」みたいなイマイチ活動内容が伝わってこないふわっとした名前の団体も、実は騎馬戦愛好家の集いだったりするんじゃなかろうか。彼らが週に一度公民館の会議室に集合しているのは、決してお年寄りたちの茶しばき合い対決のためではない。より強固な騎馬の組み方や騎手の攻め方を研究するためなのだ。

「じゃあ堂々と騎馬戦サークルを名乗ればいいじゃないか」そんな意見もあるかもしれない。だがしかし、想像してみてほしい。いい歳した大人が「んじゃ、ちょっくら騎馬戦やってくるわ」なんて家族に言ったらどうなるか。
危ない、大人気ない、一族の恥 ── ほぼ間違いなく非難轟々だろう。学校の運動会でさえ封印されることが多い昨今、世間の騎馬戦への風当たりは強い。そこで、いかにも人畜無害そうな団体名でカモフラージュしながら息を潜めるように活動しているのだろう。そうだ、同朋は案外近くにいるのだ。まだその存在に気が付いていないだけで。

ああ、なんと世知辛く生きづらい現代社会。私にできるのはせめて、騎馬戦を愛し騎馬戦に愛される人々が自由にのびのびと活動できる世界を願うことくらいだ(※ここまで全て妄想)。


そんな壮大な感情に浸っていたせいで、不動産屋に送る重要書類を書き損じた。おまけに押したての印鑑に触ってしまって手も書類も汚れた。畜生、騎馬戦なんか嫌いだ。